雑記:照明家/北寄崎 嵩

2006年10月〜

舞台照明の変貌
劇場に於ける照明の歴史はローソクやガスの光の時代から様々な工夫がなされてきていますが、エジソンが1879年タングステン電球を発明し、光りを電気的にコントロールすることが出来る調光器が開発されることによって電気の光りは劇場に急速に広まって行きました。そして19世紀のヨーロッパで、舞台上での演出の必要性そして舞台装置の改革と舞台照明の重要性を唱えるスイス人のアドルフ・アッピア(Adolphe Appia [1863−1926])やイギリス人のエドワード・ゴードン・クレイグ(Edward Gordon Craig[1872−1966])らの演劇改革論者が光りのあり方の重要性を唱えます。そして豊かな想像力と指導力によってクレイグやアッピアのできなかった夢を実現するのがドイツ人のマックス・ラインハルト(Max Reinhardt[1873−1943])でした。1950年代にはバイロイト祝祭劇場が再開しビーラント・ヴァグナー(Wieland Wagner[1917−1966])はアッピアの理念から出発し、世界のオペラや演劇の演出に多くの影響を与えました。バイロイトの祝祭劇場は照明の新技術であるコンピュータ調光装置や高輝度放電灯をいち早く採用しています。そしてビーラント・ヴァグナーの抽象舞台と簡潔な照明技法で音楽性を表現した舞台に影響を受けたセノグラファーにチェコのヨゼフ・スヴォボダ(Josef Svoboda[1920−2002])がいます。スヴォボダは24v低電圧ハロゲン電球にパラボリック反射鏡と拡散光を防止する同心円ルーバーを装着したビームライトはスヴォボダライトと呼ばれ世界の劇場で採用されています。このように舞台照明は劇場でとても重要な働きをしています。それは劇場において役者或いは踊り手がおかれた環境を包み込み、舞台上における全ての要素を融合させる接着剤的な役割をして舞踊や演劇における感情や意味を明確にするために存在しているからです。勿論ここに上げた人達以外にも舞台照明の重要性を説いた人たちがいます。プロデューサーのデービッド・ベラスコ(David Belasco[1858−1931])、装置デザイナーのリー・シモンソン、ロバート・エドマンド・ジョンーズ(Robert Edomond Jones)などが舞台装置と照明の関係を重要視しています。更にビームプロジェクターやレンズプロジェクターの開発に力を注いだトマス・ウィフレッドやエール大学の舞台照明学のスタンレー・マッキャンドレス教授(Stanley McCandless)をあげることができます。このように舞台照明の歴史は古くから多くの先達によって様々な工夫と改革によって現在に至っています。そんな世界に自分がいることを考えると少し怖くなって来ます。(2006年9月28日)

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